5歳になるひとり娘のニーナをベッドに寝かしつけ、おでこにおやすみのキスをして枕元の灯りを消そうとしたとき、彼女が小さな声で私に尋ねた。
「お父さんはクリスマスには帰ってくるの?」
  
私は涙を堪えてベッドの縁に腰を下ろし、彼女の手をそっと握り答えた。
「スウィーティー、お父さんがいなくなったときのことを覚えてる?」
  
彼女は頷いた。
「お父さんがとても遠いところへ行かなければいけなくなったことを覚えているでしょう?お父さんはまだその遠いところにいるのよ。でもね、ハニー。あなたのお父さんはいつもここにいるわ」
  
私はニーナの左胸にやさしく手を当て、そう言った。しばらく静かに私を見つめているうちに、ニーナの表情が明るくなっていった。
「じゃあ、私たちがクリスマスにお父さんのところへ行って驚かせるっていうのはどう?」
  
私の目から一滴の涙がこぼれ落ちた。私たちはそこへ行けないことを言い聞かせたが、まだ幼い娘がこんなにも彼を恋しく思っていることに胸が痛んだ。
「それなら、お父さんに手紙を送ることはできないかな?」
  
しょんぼりした目を私に向けてニーナがそう尋ねた。
「もちろんできるわよ、ハニー。さあ、もう寝る時間よ!」
  
彼女が目を閉じ、寝息をたて始めたことを確認してから静かに灯りを消し、私は彼女の部屋をあとにした。

  
ホットミルクを入れ、夫であるネイサンの写真を手に取り居間に腰を下ろした。私は溢れ出る涙を今回は止めようともしなかった。こんなにも彼のことが恋しい!
  
彼が去ってから6ヶ月以上もの間、私はずっと彼と共に過ごすクリスマスを思い描いてきた。たとえそれがニーナのためだけのものだとしても構わなかった。だが、それももう叶わない願いなのだ。

  
翌朝、私はカウチで目が覚めた。きっと最愛の人−−ネイサンの夢を見ていたに違いない。
  
彼の写真を元の場所へ戻すことから私の1日は始まった。明日はクリスマス。まだまだ私にはやらなければならないことが山ほどあった。

  
ニーナは8時を過ぎて程なく、元気いっぱいでキッチンへ駆け込んできた。食べる気満々のようだ。
「今日の朝食は何にする?ハニー・オーツ?それともコーンフレークがいい?」
  
ニーナはしかめっ面でしばしの間考えを巡らせたあと、コーンフレークを指差した。

  
朝食のあと、私たちは人を訪れるために外出した。最初に訪ねたのはおばあちゃんとおじいちゃん−−ネイサンの両親だった。
  
ネイサンの写真がクリスマスツリーの至るところに飾られていることに気付いた私は、ニーナと義父が外にあるトランポリンで遊んでいるときを見計らってそのことを義母に尋ねた。
「ああ、写真のことね。私はただ彼のことを考えないで過ごすことに耐えられなかっただけよ。たとえ彼の肉体がここにないってわかっていてもね。こうしておけば、彼はまだここにいるって感じることができるからね」
  
私たちがしばらく話していると、ニーナが手にひよこを乗せて駆け寄ってきた。
「見て見て。おじいちゃんがくれたの!」
  
ニーナは得意気に言うと、優しくひよこを撫でた。額の汗を拭いながら家に入ってくる義父を私は見つめた。
「心配しなさんな、ジェス。わしが金網で鳥かごをこしらえてあげよう」
  
義父はニヤッと笑い、お気に入りの肘掛け椅子にどっかりと腰を下ろした。

  
しばらくしてから、ニーナと私はニーナの叔父たちや叔母たちの家を回った。自宅へ帰り着いたときには、辺りは暗くなっていた。
  
ニーナをベッドへ押し込み、いい子にして眠らなければサンタクロースがやってこないことを言い聞かせ、彼女が捧げる祈りを聞いた。
「お父さんとお母さん、それぞれのおじいちゃんとおばあちゃん、いとこみんなと、おじさんたち、おばさんたちみんなに神様のご加護がありますように。あと、神様お願いです。クリスマスだけでもいいので、お父さんに会わせてくださいませんか?」
  
彼女は布団に潜り込むと目を閉じ、数分後には眠りについた。

  
ニーナが眠って1時間ほど経ってから、私は『サンタクロースからのプレゼント』を包装してクリスマス・ツリーの下に置き、ココアを入れた。
  
ニーナを授かって以来ずっと、伝統に従ってプレゼントをクリスマス・ツリーの下に置くようになったのだが、ネイサンのいない家はまるで空っぽのようだった。
  
私たちはここに座って話をするはずだった。子供時代の楽しかったクリスマスの思い出や、これから過ごす未来のクリスマスのこと。二人目の子供を作ることや、来るべき年に叶えたい夢をふたりで語り合うはずだったのに・・・・・・。
  
強くならなければならないことはわかっている。でも、ネイサンがいないクリスマスは私をそうさせてはくれなかった。
「ハニー、あなたがどこにいるのか私には感じることができないけど、素敵なクリスマスを」
  
そう囁いてから、灯りを消してベッドに向かった。

  
夜中にネイサンがベッドへ滑り込む気配で目が覚めた。彼の両腕が私を包み込むように抱きしめている。
  
ネイサンを想うとき、ふたりで分かち合った全ての幸せな記憶が甦ってくる。
  
私を抱きしめてくれている彼の腕が、たとえ私の空想が生み出したものでも構わなかった。私はその心地よさと安らぎに身を委ねた。

  
愛してるわ・・・・・・。
  
  
間もなく、私はまた眠りに落ちていった。

 

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