お墓

 皆が泣いている。
 何故泣いているんだろう。
 僕は遠くからそれを見ていた。
 皆は何かを囲んでいる。
 雑踏に埋もれ、それは何か分からない。
 でも、大切なものだということは分かる。
 僕はそれの全てを知っているようで、それのことを全く知らないような。
 上手く言えないけど、変な感じ。
 時間が経つにつれ、それが何なのか知りたくなってくる。
 ついに我慢できずに、それに近寄る。
「知らない方が身のため」
 誰かが、そう言った気がした。
 言ってなかった気もする。
 不思議な気持ち。
 人の輪の中に入るも、それは見えない。
 いい具合に皆が邪魔する。
 右に動けば右に、左に動けば左に、皆が動く。
 まるで、それを僕に見せたくないように。
 皆が涙を流している。
 何故かそれを見て、僕は少しうれしくなった。
 変な感情。

 

 ――それは墓石だった。
 何気なく、そこに掘られた名前を見る。
 皆は泣いている。
 雨が降りだした。
 そこには僕の名前があった。
 僕はほほえんだ。
 自分が死んだことに気付かなかったのか、気付きたくなかったのかは分からないが、僕は数日前にいなくなっていた存在だった。
 この世にはもういられない。
「さようなら」
 僕がそうつぶやくと、皆が一斉に僕を見る。

 

 雨が上がった。

 

「ありがとう」

 

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